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「自分を構成する要素を戦わせない」新しい年は“書評修行”で骨太な人間を目指す|コンサバ会社員、本を片手に越境 ... - 幻冬舎plus


故郷で2023年の敗因に思いを馳せる

しんどい時期ほど、田舎があってよかったと思うときはない。

東京駅から地元・仙台までは新幹線で2時間弱。故郷の駅のホームに降り立った瞬間、「さすがにここには誰も追っかけてこられないよね…」と警戒解除。ネットやSNSでこの世がどんなに「繋がる社会」化しても、「物理的に離れること」の重さは変わらないように思う。

 

自分と仕事、自分と他人、自分と自分が信じていなかったはずの価値観がベッタリとくっついて、境目が曖昧になる感覚。それは、皮膚が溶けていくような気持ち悪さと、なめらかな泥に身をうずめていくような背徳的な快感だった。長い夏が終わる頃には「そろそろ自滅しそう…」と脳内アラームが鳴り始めたのに、愚かな私はスヌーズ機能を使いまくり、やっとのやっとで「私、目を覚ませ!」とアラームを叩き切れたのは、仕事納めした夜。仙台駅に到着したのとほぼ同時だった。


東京とはひと味違う寒空の下、数か月ぶりに覚醒した頭で自分の「敗因」に思いを巡らせ、一つの気づきにたどり着いた。

「本さえ読めればあとは適当でヨロシイ」的にぬるく生きてきた時間が長すぎるせいで、自分をあまりに単純化し過ぎていた。且つ、「自分と外」の距離の取り方が極端になりがちな私。これまで書いたものを振り返っても、自分のことをA面とB面に分けて語ったりするところに、年齢不相応の幼さ(と、私は思う)が垣間見える。

こんなことではいけない。私がこれから目指したいのは、リーダーのタイプで言えば「オーセンティックリーダーシップ」、働き方で言えば「パラレルキャリア」、抽象的に言えば「知情意が一致した人」なのだ。肩書や役割抜きに自分を磨き、より強く、より賢く、より優しい人間になって、裏表なく生きていきたい。AだのBだの、顔を使い分けるのは無しにしたい。その上で、自分と外の間の境界線はしっかり引いておきたい。


会社員とライター、個人と家族人、正論マンと事なかれ主義、理想主義と現実主義、地方人と都会人、アラサーとアラフォー。

自分の中に混在するいろいろな要素を、互いに戦わせるのはもうやめる。いや、思考訓練としての議論はいくらでもしてくれていいけれど、どっちかがどっちかを殺そうとするデスマッチはやめてくれ。そしてどちらかをねじ伏せる為に、外から価値観を借りてきて、他人のせいにするのもやめなさい。

そんなことを考えていると改めて、私が毎週のように繰り返している「本について書く」作業はとても良い訓練になるはずだと気づく。自分の外にある対象(本)について、自分の中にあるものを掘り出し照らし合わせながら、更に外にある人たち(読者)に向けて書く。入れて、中でこねくり回して、綺麗にして出す。その繰り返しが、私を強く骨太な人間にするのではないだろうか……。

そんなことを考えながら、書評や美術評論の世界で名を成す三人のエッセイを読んでいた2023年の終わりと2024年の始まり。本年もどうぞよろしくお願いいたします。


書評家人生』(鹿島茂/青土社)
 


書評は人のためならず。
そう、書評は自分のために書くものでなければ長くは続けられないのです。――『書評家人生』より

元明治大学教授、フランス文学者の鹿島茂さん。本書は、鹿島さんがレギュラー執筆者として書評を書かれている毎日新聞を中心に、2007年から2023年までに発表された書評原稿をまとめた書評集。原稿用紙数枚分を舞台に、一冊の本と書評家が静かに火花を散らす。書評はコストパフォーマンス最悪の「苦役」と言い切りつつ、書評を書き続け、書評の無料閲覧サイト「ALL REVIEWS」を設立し、神保町で書店「PASSAGE」も運営する鹿島さん。そんな「本の守り神」の集大成がここに。


感性は感動しない―美術の見方、批評の作法』(椹木野衣/世界思想社)
 


いまでは、自分が生まれ育った、決して変えることのできない風景や記憶というのをないがしろにしては、どんなに抽象的で思弁的なことを書こうとしても、うまくいかないことがよくわかっています。――『感性は感動しない』より

『反アート入門』『アウトサイダー・アート入門』等の著書をもつ美術評論家・椹木野衣さんによる初の書き下ろしエッセイ。アートという客観的評価が難しいものを相手どり、一般の読者にも分かりやすい言葉で、その門戸を開く。美術を鑑賞する、何かを批評するというと、ついつい「感性を磨く」等という抽象的な概念に惑わされ、結局何も身に着けることができずに終わってしまう……。そんな人に向けて、ものを見る・表現する力を磨く具体的な方法が紹介されている。


そして、すべては迷宮へ』(中野京子/文春文庫)
 


歴史を知る、後世の画家の手による絵には、当然バイアスがかかっているものです。皆さんも、色々と考えてみて下さいね。――『そして、すべては迷宮へ』より

『怖い絵』『名画の謎』シリーズ等で、よく知られた名画に潜む謎やメタファーを紐解き、読者をあっと言わせた中野京子さん。中野さんが提示した「怖さ」「謎」という視点の置き方は、アートをより楽しみたいと願っていた人々に歓迎された。その絵が描かれた背景となる歴史やアーティストの人生を知ることで、目に映るものが変わってくる面白さ。中野さんのエッセイを読んでいると、アートを楽しむには、受け取る側の自分の知識・ボキャブラリーを増やすことが第一だということが伝わってくる。
 

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