この記事が公開される頃には、“約束の日”の日が刻一刻と近づき、当日への期待感も現実味をもって膨らんでいることだろう。4月15日(土)と16日(日)に京セラドーム大阪、同月21日(金)〜23日(日)には東京ドームにて開催される<慣声の法則 in DOME>。SixTONESにとって初の単独ドーム公演まで、もう間もなくである。
遡ること2年前。2021年10月発売の映像作品『on eST』をレビューしたときのことをよく覚えている。全国アリーナツアーのステージながら、レーザーやプロジェクションマッピングなど、3つの特殊効果のうち導入したい演出をどれかひとつに絞らなければならなかった場面。結果的にスタッフの粋な計らいによって、全演出を実現できたわけだが、筆者はこう思った。アリーナクラスのステージに立てるなんて、いくら若手とはいえ成功したアーティストの枠に入るはず。それでも取捨選択を迫られる場面があるのか、と。
そう考えさせられたのが、つい昨日のことのよう。だが、いまはどうだろうか。メンバーとスタッフ、そしてteam SixTONESの有り余るバイブスはアリーナには収まりきらず、訪れるは待望のドーム公演である。きっと、先ほど触れたような演出面でも過去最大規模となるに違いない。本当に天晴れなことだ。
そんな注目タイミングで、ダメ押しのように熱狂を投下してくるのが、SixTONES。初日公演の3日前=4月12日(水)に、9thシングル『ABARERO』がリリースとなる。久しぶりのノンタイアップシングル。ここまでくると正直、どんな楽曲でも諸手を挙げて歓喜してしまいそうになる……のを押さえて、厳格に楽曲レビューをしなければ。と思ったのだが、その決意もたった数秒で崩れ去った。アリーナからドームへと移ったことで、ただ単純に会場が大きくなっただけではない。グループの表現と楽曲もまた、それと同じくらい、あるいはそれ以上にスケールアップしていたのである。
「ABARERO」は、その名の通り、誰にも止められない衝動・溢れ出す本能を解き放つ、型破りな“超攻撃型”HIPHOPチューン”
引用元:ABARERO | SixTONES(ストーンズ) Official web siteより
楽曲の概要は、SixTONES 公式サイトの紹介通り。前作シングル収録のポップな応援ソング“Good Luck!”、涙を誘うミドルバラード“ふたり”はどちらも秀作だったものの、SixTONESが大衆に受け入れられるポップアイコンとして、音楽性の角も徐々に取れてしまうのかとも懸念していた(実は密かに)。だが、お待ちかねのトガったSixTONES、カムバック。この重要局面で選んだのが、ポップでも、ロックでもなく、彼らの気骨さを最も表現できるヒップホップだったことに、先んじて感謝を示したい。
まずは楽曲の背景について説明すると、プロデュースを担当したのは、TOMOKO IDAとTSUGUMIのふたり。これまでに“Love u…”、“Bella”、“Coffee & Cream”、“So Addicted”をコライトしてきた信頼しかないタッグであり、彼女らがシングル表題曲を担当するのは今回が初となる。その時々で、ヒップホップ、レゲトンからR&Bまで曲調はさまざまながらも、その作風は決まってスムースで、新しい。また詳細は後述するのだが、SixTONESのアイドル性とボーカル力がどうすれば輝くかを柔軟に解釈している。これまでの制作曲数を踏まえるに、グループのお気に入り作家のルーティンには間違いなく入っていることだろう。
加えて、ミックスとマスタリングにはなんと、アメリカ・ロサンゼルスにスタジオを持つイタリア出身エンジニア・IRKOが参加。ヤング・サグ(Young Thug)、21サヴェージ(21 Savage)、トラヴィス・スコット(Travis Scott)、タイ・ダラー・サイン(Ty Dolla $ign)ら、これまでに携わったラッパーを集めれば、ドリームチームが生まれないわけがない大物である。楽曲提供とはいかずとも、SixTONESのヒップホップドリームも来るところまで来たと思わされる事件だが、それくらいにこの楽曲に掛けるところは大きいのだと受け止めた。
さて肝心のトラックだが、たしかに公式サイトの触れ込み通り、ヒップホップをベースにはしている。とはいえ、“ABARERO”はいい意味で少し狂っている。楽曲構成を以下に簡単にまとめたので実際にご覧いただいた方が早いだろう。
バース → ビルドアップ → フックA → フックB → バース(ハーフ尺)→ ビルドアップ → フックA → フックB → フックA → フックA’
フックのループ、あるいはいい意味でフックの応酬である。ジェシーのパートからバースが始まったかと思えば、間もなく《Can’t nobody hold us down now〜》からビルドアップが始まり、早々に《A BA RE RO Break it Break》でフックに。ここでひと段落するかと思いきや、《Ayy もっともっとBring it up》で予想を裏切るようにフックBに突入。2段階構成の“追いフック”で、ハンズアップを求めてくるのである。
その後、森本慎太郎の歌声で再びバースが挿入されるのだが、1ループ目と比べると尺が半分に。息つく間もなくビルドアップとなり、楽曲の終わりまで形は変えながらだが4連続フックを迎える。バースとフックの関係性ならぬ、フックのループによって構成されており新規性を感じる。とはいえ改めてになるが“ABARERO”ではずっとフックを歌っている。盛り上がることだけに一点突破したアッパーチューンにほかならないのだ。
その上で、このトラックはヒップホップでありながら、ダブステップなどの要素が強いことも付け加えておこう。バースの部分こそBPM70程度で、ゆったりとしたトラックに倍速のフロウを乗せるわけだが、フックBなどではBPM140、つまりキックの方が倍速となって楽曲に緩急がつく。キックの重たさを強調した音作りや、タイトな質感のベースなどで、ダンスミュージック的な音像も際立っているのだ。
また、“詳細は後述”としていた部分になるが、バース終盤の《Welcome to our party》というあえて無機質にしたコーラス、楽曲全体でも象徴的な京本大我のハイトーンなシャウトなどは、あくまで“歌モノ”として彼らの紡ぐメロディを楽しめるようにしてくれているのだろう。これは、SixTONESのアイドルというポジションと、そしてボーカルグループとして歌唱力に特化したゆえの+αな表現。こうした次のブロックへとシームレスにメロディを運ぶ細かなギミックは、やはりヒップホップにはあまり見ない楽曲作りの考え方である。
そして、SixTONESの楽曲といえば、単一ジャンルに囚われない楽曲作りが肝。前述のボーカルグループであることを意識した楽曲作りと同様に、TOMOKO IDAとTSUGUMIによるタッグ作は、ミスクチャーな楽曲作りを目指す傾向が強い。このあたりもグループの目指す方向性との親和性が高く、今回の“ABARERO”でもしっかりとその味を感じ取れたのではないだろうか。
最後に歌詞についても言及しておきたい。と言っておきながら、この楽曲で語るべきは、冒頭のジェシーのラインにすべてが詰まっている──《まだ押し上げるぜ限界》。
その後の田中樹のパートでも《Yeah, まだまだかますぜ俺らのやり方で》ともスピットされるのだが、両者に共通する“まだ”という言葉が示す通り、過去に築き上げてきた功績など、単なる序章に過ぎない。ゴールはまだこんなものではない。ドーム公演すらただの通過点だと、その頼もしい背中を見せてくれるかのよう。
実際に、楽曲だってどんどん進化している。これまでに会場をロックしてきた“S.I.X”や“WHIP THAT”などを「速さ」とするならば、バウンシーなビートでその場を征する“ABARERO”は、「重さ」に特化した一曲。これまでに作り上げてきた楽曲の“おいしい”部分をヒップホップ軸でミックスし、SixTONESをレベルアップさせた進化系なのである。
本稿の冒頭に記した通り、会場のキャパシティ拡張に伴い、楽曲のスケール感も間違いなく広がっている。『ABARERO』がドーム公演直前、このタイミングでリリースされたのには意味しかない。何も考えず、ただ闇雲に作られたのでないと、team SixTONESであればすでに察しているに違いない。
SixTONESは今回のリリースを通して、自身の音楽観に対してまたニューベーシックを更新した。彼らがアップデートを繰り返す先には、何が待っているのだろうか。その答えを探すためにも、我々は“約束の場所”で、爆音で、SixTONESの気概が詰まった“ABARERO”を浴びねばならない。そんなことを思い巡らされる一曲だった。
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