ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第717回
1ヵ月ぶりのAIプロセッサー連載、今回はSynopsysのARC NPUを取り上げたい。SynosysというのはCadenceと並ぶ2大EDAベンダー(*1)の片割れである。
EDA(Electronic Design Automation)とは要するにLSIの設計支援ツールであるが、昔はそれこそ配線CADを提供するだけのベンダーだったのが、プロセス微細化による大規模化にともない、単に配線CADだけでは足りなくなっており、最適な配置配線の計算やシミュレーション、物理的な信号シミュレーション、タイミングシミュレーションなど、さまざまな機能を提供している。
EDAツールだけでなくIPも提供しており、LSIの企画から製造の手前(つまりテープアウトした設計を工場に納入する直前)までの範囲のソリューションを提供している。これはCadenceも同じことで、いわば設計に関するワンストップサービスを両社とも提供している格好だ。
もちろんその分お値段もすさまじい。昨今の先端LSIの設計コストが高騰している一因は、このEDAツールの利用料の高さにある。もっとも「EDAツールが高すぎるから一切使わずに人手だけでなんとかするわ」が通用するのはせいぜい500nmあたりまで。7nmや5nm世代を人手だけで設計したら、間違いなく完成しない。もうこれは必要経費と割り切って、LSIを作りたかったらまずEDAツールの利用代をかき集めるところから始める必要がある。
話が逸れたが、SynopsysはさまざまなIPを提供しているが、これらは自社開発というよりはIPを持っている会社を買収してラインナップに加えたものが圧倒的に多い。今回説明するARC NPUもその1つである。
(*1) 昔はこれにMentor Graphicsを含めた3大EDAベンダーが存在したが、Mentor Graphicsはやや遅れをとり、さらにその後Siemensに買収されて現在はSiemens EDAに改称されている。
ARC Internationalの前身は、名作「スターフォックス」を
任天堂と共同開発したArgonaut
Synopsysは2010年にARC International LTDを買収するが、このARC International、もともとはArgonaut Gamesというビデオゲームの開発会社だった。「ゲームの開発会社」といっても単にゲームソフトの開発だけでなく、ハードウェアの開発も手掛けていたのがおもしろいところだ。
同社の最初のゲームはCommodore 64向けのSkyline Attack(1984年)で、次いでAmiga ST向けのStarglider/Sterglider 2(1986/1988年)という具合にコンスタントにゲーム機向けのタイトルを発売していくが、これと並行してハードウェアの開発も手掛けることになった。
元はと言えば、Starglider/Sterglider 2のNES(ファミコンの海外仕様)版の企画を任天堂に持ち込み、これがSNES(スーパーファミコン)向けゲームタイトルとして採用されることになった。
ただしスーパーファミコンがその時点で想定していたハードウェアでは、Starglider/Starglider2のプレイには性能が足りず、そこでROMカセットの中に描画用ハードウェアを組み込むことにした。Super FXとして知られるこの追加のハードウェアは、こうして任天堂とArgonaut Gamesが共同開発することになった。
このSuper FXチップ、3Dポリゴンのレンダリングが可能な仕組みになっており、これを実装するためにArgonaut GamesはGPUアクセラレーター的に利用できる独自のRISCプロセッサーを開発する。このRISCチップをSuper FX専用にするのではなく、もっと他に販売できるのではないか? と思いついたことで、ARC Internationalが生まれることになる。
1995年、Argonaut GamesはATL(Argonaut Technologies Limited)という子会社を作り、ここにRISCプロセッサーなどのプロジェクトをまとめる(ゲームソフト部門はASL:Argonaut Software Limitedに集約された)。1996年にATLは完全分社化され、さらにその後ファンドの資金を得てATLは完全に独立、社名もARC Internationalに改称された。ちなみにARCは“Argonaut RISC Core”の略だそうだ。
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