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<書く人>小説の重要な構成要素 シリーズ紙かみ礫つぶて16『女中 ... - 東京新聞

『女中』の編者・阪本博志さん(右)と皓星社の晴山生菜社長

『女中』の編者・阪本博志さん(右)と皓星社の晴山生菜社長

 皓星(こうせい)社(東京・神田神保町)が「従来とは異なる切り口で文学作品を蒐集(しゅうしゅう)したアンソロジー(選集)」として、シリーズ「紙礫」の第一作『闇市』(マイク・モラスキー編)を刊行したのは二〇一五年八月。以来断続的に刊行を続け、二二年十一月には第十六作となる『女中』を出版した。

 本書の編者阪本さんは社会学・メディア史・出版文化論を専攻。著書に『「平凡」の時代−1950年代の大衆娯楽雑誌と若者たち』(昭和堂)、編著には『高度成長期の<女中>サークル誌−希交会「あさつゆ」』(全十巻、金沢文圃閣)などがある。皓星社の晴山生菜社長は「阪本さんの研究分野に元々興味があったので『女中』を編んでほしいと依頼した」という。

 「女中」は現代では不快語ともされるが、昔は紡績工・事務員・販売員とともに女子四大職業のひとつ。大正後期から昭和戦前期にかけて最盛期を迎え、一九七〇年以降にはほとんど消える。五五年の国勢調査では三十万人余に上った。

 阪本さんは対象を家庭に住み込みで働いた若い独身女性とし、女中を重要な構成要素とする小説を十編選定した。巻末に記した解説で(1)差別される存在(2)性的なまなざしをむけられる存在(3)異性にまなざしをむける存在−の観点から女中像を整理できるとしている。

 (1)では最初に登場する由起しげ子の「女中ッ子」。五四年に発表された。田舎出身の中卒女子という立場の弱さに加え、子どもにまで蔑視されてもけなげに生きる姿が切ない。五五年には左幸子主演で映画化。「多くの希交会会員が映画に共感した。実態に近いものがあったと考えられる」と阪本さん。太宰治「黄金風景」も(1)に該当する。

 (2)だと志賀直哉「佐々木の場合」、深沢七郎「女中ボンジョン」、水上勉「ボコイの浜なす」、大岡昇平「女中の子」。(3)には李泰俊「ねえやさん」、三島由紀夫「離宮の松」、林房雄「女中の青春」、小島政二郎「焼鳥屋」が入る。「焼鳥屋」を最後にすえたのは、小島家の女中が幸せをつかみ「読後感がさわやかだから」(阪本さん)。

 女中が消えた要因には▽洗濯機など家電製品の普及で家事労働が減少▽女性の教育機会や職場が拡大▽出身基盤である農村の縮小−などがある。通勤で既婚女性の家政婦が女中に代わっていく。かつてあった<女中の時代>が本書によりよみがえるようだ。皓星社・二二〇〇円。 (小鷲正勝)


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