池袋や秋葉原といった「オタクの街」には安くて美味しい飲食店が多い。コスパ重視の目利きが多いからなのか、単に人の集まる繁華街だからからなのか、理由は定かではないが、そうした街で近頃よく目につくのが、「カレーは飲み物。」などの飲み物。シリーズと呼ばれる飲食店だ。
今回は同店を運営する株式会社のみもの。代表の壬生裕文氏に、1度見かけたら忘れられない店名のイメージからは少し意外な、マジメな経営理念などをうかがった。「令和のニュースタイル構築を目指す」
壬生氏は2010年に池袋で「なぜ蕎麦にラー油を入れるのか。」というキャッチコピーの蕎麦屋「池袋 壬生」を創業。2012年、同じく池袋で1号店をオープンした「カレーは飲み物。」をはじめ、「とんかつは飲み物。」「焼きそばは飲み物。」「ハンバーグは飲み物。」といった【飲み物。シリーズ】のお店を都内の山手線沿線を中心に展開している。昨年末から今春にかけては「なぜ蕎麦~」池袋南口店・渋谷店、「カレーは飲み物。(壺)」池袋東口店、「トンテキとハンバーグは飲み物。」秋葉原店の4店舗を出店。2020年6月時点で26店舗を構える。
壬生氏が手がけるお店の特徴のひとつに挙げられるのが無料のトッピングのカスタマイズシステムだ。池袋東口の新店舗「カレーは飲み物。(壺)」では、スパイスに漬けたうずらの味玉やロシア風のポテトサラダ、自家製チャイ、魯肉飯のトッピングが定番人気となっている。その戦略について、壬生氏はこう語る。
「ぼくらはお店をコピペしていくような昭和・平成のチェーンストアではなく、様々な業態で点を繋ぎ線にしてやがてエリアとして抑えていく“ドミナントマルチブランド戦略”を進めていて、令和のニュースタイルの構築を目指しています」
オタクには“本質を見る目”がある
「飲み物。シリーズの概念には『おいしい・おなかいっぱい・おとく』という3本柱があるんですが、その大衆的魅力と世界観を理解してもらえるターゲットがいるエリアを選び、出店しています」ウガンダ・トラの名言にちなんだ奇抜な店名もきっかけにSNSなどで注目を浴び、学生や会社員など男子層を中心に人気に火が付いた「カレーは飲み物。」。
欧風カレーをベースにアレンジをかけた繊細かつ王道のカレーで、最近では女性客も増え、秋葉原や池袋などアニメやグッズショップが多いエリアのオタ活の止まり木として、オタク女子たちの利用も増えているという。
「オタク層の人たちにもレイヤーがあるので何とも言えませんが、値段、量、質、などフラットに総体的にジャッジできる“本質を見る目”を持った人が多いと思います。池袋や秋葉原では、オタクの『好き』や『推し』に対しての溢れ出る愛情や楽しむ気概、みたいなものと、ぼくらのコンテンツの熱力やこだわりがトルクとなり大きなエネルギーを生んで街の魅力を増していると感じています。」
“ラノベ系ネーミング”のインパクト
「ボリュームはもちろん、味にもうるさいお客様が多いので、納得していただける努力は惜しまずやっていますね。店名に関しては、創業当時は『やっちゃたな〜、すぐに潰れるよ』みたいな周りからの視線をヒシヒシ感じていましたが、逆に競合相手もいなかったのでしっかり認知されたと思います」最近ではこうした“ラノベ系ネーミング”のインパクトに目をつけたと思われるパン屋さんやラーメン屋さんなども誕生。来店してもらうためのきっかけづくりの手段のひとつとして、ラノベ系ネーミングは少しずつ定着しているようだ。
コロナ禍で飲食業界を取り巻く環境は激変しているが、過去には飲食店の再生事業などにも携わった経験を持つ壬生氏は、自粛期間が終わったこれからが本当の正念場だと語る。
「まずは“安心の見える化”というテーマで、飛沫防止策などの感染対策に取り組んでいます。“地場デリバリー”として池袋エリアで出前もやろうと思っています。カレー、とんかつ、ハンバーグ、肉そばなどのマルチブランドをドミナントで展開している利点を活かすことで、雇用も安定的にキープできると考えています」
地元・南信州の経営者をリスペクト
「身の丈に合った着実な成長を目指す『年輪経営』で知られる伊那食品工業は、ぼくの故郷である南信州を代表する企業。ジャンルは違いますが、地域・お客様・仲間を大切にして過剰な利益を求めず地に足をつけて一歩ずつ成長していく理念は、会社を経営していく上でも、毎日を生きていく上でもぼくの指標になっています。
ぼくらは10年掛かりで26店舗つくってきましたが、これからもジワジワと少しずつ着実に歩んでいくつもりです」
“フードカルチャーを創る”ことが目標
カレーは比較的「飲み物」に近い食べ物ではあるが、その他のとんかつ、ハンバーグなど固形型寄りの食べ物に関しては、「飲み物」のように食べられる工夫はされているのだろうか。「【飲み物。シリーズ】のフィルターを通したプロダクトはすべて“飲み物”になるので、固形か液体かなどの議論は野暮なんです」
ちなみに次に“飲み物”になりそうな食べ物は、ずばり「ビーフストロガノフ(仮)」とのことで、7月には洋食屋を出店予定。また新たな業態が仲間入りすることになりそうだ。
「ぼくらの最終的なゴールは飲み物。シリーズというコンテンツを成長させてワクワクや楽しさを創り出すこと、いわば“フードカルチャーを創る”ことです。便利に快適に効率的になることだけが人の幸福ではない。
人と触れ合いながら働き、仲間や家族たちと笑いながら美味しい料理を食べ楽しい時間を分かち合う。そんなシーンをぼくらはコンテンツを通して提供できる。数字や効率では測れない目に見えない価値の先にカルチャーがあり、それがぼくらの思う“フードカルチャーを創る”ことにつながっています」
すべてのものは“のみもの”になる
苦境の中でも歩みを止めない壬生氏の考える“のみもの”は、すでに哲学的な概念の域に達しているようだ。「中短期のプランでは、イントレプレナー(社内起業)制度の導入を検討しています。新しいコンテンツを創り出せる若いパワーを創出することが目的で、ぼくらの会社の文化や歴史を重ねることでしっかりとした土壌をつくって、楽しさと魅力を持ったチームにしていきたい。
現在はフードだけですが、ぼくらの考える『飲み物。シリーズ』の第二形態はもっと自由で、アニメ・アパレル・雑貨・ロボット・スポーツ・ゲーム、すべてのものは“のみもの”になるプロダクトとしての可能性を秘めています。若い人はぜひ好きなものにのめり込んで、自分なりの“のみもの”を発見して、“カルチャーを創る”ことに挑戦してほしいですね」
<取材・文/伊藤綾>
【伊藤綾】
1988年生まれ道東出身。いろんな識者にお話を伺ったり、イベントにお邪魔するのが好き。SPA!やサイゾー、マイナビニュース、キャリコネニュースなどで執筆中。毎月1日に映画館で映画を観る会"一日会"(@tsuitachiii)主催"飲み物" - Google ニュース
June 28, 2020 at 06:51AM
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